大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

千葉地方裁判所 平成9年(ワ)1208号 判決

原告 髙畑忠德

〈他1名〉

右両名訴訟代理人弁護士 宮川光治

同 芹澤眞澄

被告 浅野康

〈他1名〉

右両名訴訟代理人弁護士 向井弘次

主文

一  被告らは、原告髙畑忠德に対し、各自、金三七四七万一五三三円及びこれに対する平成八年四月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告髙畑周子に対し、各自、金三七四七万一五三三円及びこれに対する平成八年四月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用は、これを五分し、その二を原告らの、その三を被告らの負担とする。

五  この判決は、一及び二項につき仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告髙畑忠德に対し、各自、金五八二六万八二四八円及びこれに対する平成八年四月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告髙畑周子に対し、各自、金五八二六万八二四八円及びこれに対する平成八年四月一四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  前提事実(証拠摘示のない事実は当事者間に争いがない。)

1  本件事故前の状況

(一) 訴外松嶋一浩(以下「松嶋」という。)は、平成八年四月一四日、普通乗用自動車(以下「松嶋車」という。)を運転して、猪苗代インターから裏磐梯方面に向けて国道一一五号線を進行していた。松嶋車には、訴外亡髙畑智子(昭和四一年八月二二日生、以下「智子」という。)、訴外金子明弘(以下「金子」という。)、訴外林美里(以下「林」という。)の三名が同乗していた。

(二) 松嶋は、福島県耶麻郡猪苗代町字二丁目一付近の右カーブにさしかかり、減速をするためにブレーキを掛けたところ、車はスリップをし始め、蛇行をしながら滑り、進行方向と反対側の道路の路側帯部分と道路外の側溝との間に反対方向を向いて停止した。

(三) 松嶋、金子、林及び智子は、停止した松嶋車を再び道路上に脱出させようと試みたが成功しなかったため、やむなく金子がJAFに応援を求めるため、通りがかりの車両に同乗して猪苗代インター付近のコンビニエンスストアーに電話を掛けるために向かった。

(四) 松嶋、林及び智子は、松嶋車から外に出て、松嶋車の右側の道路部分で佇立して、応援がかけつけるのを待っていた。

2  交通事故の発生

(一) 日時 平成八年四月一四日午前四時五分

(二) 場所 福島県耶麻郡猪苗代町字二丁目一国道上

(三) 加害車 軽四輪乗用自動車(水戸《省略》、以下「加害車」という。)

(四) 事故の態様 智子は、国道上において脱輪した松嶋車の外で車の引き上げの救助を待っていたところ、反対車線から被告浅野康(以下「被告康」という。)運転の加害車が衝突してきて、加害車にはね飛ばされ路面にたたきつけられて受傷した。その後、智子は、病院に運ばれて治療を受けたが、平成八年五月一六日、脳挫傷、硬膜下血腫等により死亡した。

3  責任原因

被告康は加害車を運転し、被告浅野修司は加害車を所有して加害車を自己のための運行の用に供していたものであり、被告康は民法七〇九条により、被告浅野修司は自賠法三条により、本件事故によって生じた損害を賠償する義務がある。

4  原告髙畑忠德は、智子の父、原告髙畑周子は、智子の母であり、智子の相続人である。

5  損害の填補

原告らは自賠責保険から三〇〇〇万円を受領し、被告ら加入の任意保険から治療費九五一万八一二〇円が病院に直接支払われている。

二  争点

1  過失相殺

(一) 被告らの主張

(1) 智子は、同乗してきた松嶋車が、現場付近の路面の凍結により制御不能となり、道路路肩に突っ込んだことを十分認識していたのであるから、猪苗代インター方面から裏磐梯方面に向けて現場を進行してくる車両が松嶋車と同様凍結した道路のため制御不能となり、場合によっては、松嶋車と同様に道路反対車線に飛び出してくる可能性を予測できた。そして智子は、制御不能の車両が進行してきても、衝突回避できる道路外の適切な地点に退避して結果を回避することが可能であったにもかかわらず、漫然と松嶋車の道路側に佇立していた。したがって、本件事故惹起若しくは結果の拡大については、智子の過失もある。

(2) 過失相殺は、あくまで事実の評価であって、その割合についての合意は裁判所を拘束するものではない。

(二) 原告らの主張

(1) 松嶋車が滑走して停止したのは、松嶋にとって、国道一一五号線を運転するのは初めてであり、道路状況をよく把握していなかったこと、松嶋車は、平成八年三月二五日ころ購入したばかりであり、この車両の運転になれていなかったためである。本件事故現場の路面上には、他の車両がスリップして蛇行した痕跡はなく、松嶋車が停止した後、金子を同乗させた車両及び松嶋車と同様猪苗代インター方面から裏磐梯方面に向け進行してきた何台かの車両が智子らを発見し援助を申し入れたが、これらの車両はスリップしたり蛇行したりしていない。したがって、智子は、立っているところにめがけて突っ込んで来る車両があるなどとは予想しなかった。

(2) 松嶋車が停止した場所の車道をはさんだ反対側は、真っ暗で、雪の泥のぬかるみ状態で立っていられない状況であった。停止した側は、側溝のすぐ脇が土手で、そこには工場のフェンスがあり、松嶋車の助手席側(車両とフェンスの間)に三人が立つことは不可能であった。

また、松嶋車から離れると真っ暗な場所に立つことになり、かえって危険でもあった。ライトをつけた松嶋車の脇に立っていることが一番安全であった。

(3) 被告康は、加害車がノーマルタイヤであること、凍結のため滑りやすくなったことが分かっていたのに、時速六〇キロメートル位の速度で進行し、スタッドレスタイヤのような感覚でブレーキを掛け、危険を感じた後一・五ないし一・八秒の短時間に智子らをはね飛ばしたものである。このように本件事故は、被告康の危険な運転行動により惹起されたものであり、智子は、加害車のような速度で、突っ込んで来る車両があることを予想することはできず、このような車両に対しては、どのような場所に立っていても、衝突を回避することは不可能であった。

(4) 被告らは、原告らと、平成八年六月六日、過失相殺をしないことを合意した。

2  損害額

(一) 原告らの主張

(1) 治療費 九五一万八一二〇円

(2) 入院雑費 八万〇〇〇九円

(3) 入院付添費 三六万円

智子の症状は極めて重篤で常に生命の危険に直面しており、家族の待機や付添の必要性が高く、入院日数は三三日にわたり、家族が付き添った。近親者の付添については、一日六〇〇〇円程度が智子の損害として認められているところ、延べ付添人数六〇人を乗ずると三六万円となる。

(4) 入院付添人のリネン代 九二六三円

(5) 付添看護のための交通費 四八万〇六四〇円

(6) 入院慰謝料 一〇〇万円

(7) 葬儀費用 五六二万七二五四円

(8) 給与に関する逸失利益 一億〇九九二万五四三九円(うち九一八五万四七一八円を請求)

① 智子が就労していた日本アイビーエム株式会社(以下「訴外会社」という。)の給与規定では、「定期昇給は、入社後六か月を経過した社員の本給について、職務内容および定期昇給考査期間中(前年一月一日から前年一二月三一日までの一年間)の業績、勤務態度ならびに本給を総合勘案して、毎年一回行うものとする」ことになっており、定期昇給が停止されるのは、原則として、業務外の一般傷病又は結核性疾患以外の事由で九〇労働日以上欠勤又は休職した者、定期昇給考査期間最終日に自己都合で継続して三〇日以上欠勤している者、公職専従の者、会社の許可を受けて、学校教育を受けるため会社業務を休職中の者、育児・介護休職中の者、ボランティア・サービス休職中の者、キャリアプラン休職中の者などであり、定期昇給を停止されることがあるのは、定期昇給考査期間中、著しく勤務成績不良の者、懲戒を受けた者に限定されている。したがって、智子については、将来にわたる定期昇給の見込みは相当の確からしさをもって推定できる。

訴外会社では、男女による待遇の違いはなく、智子の死亡前年(二八歳時)の年収額は、五七六万九一七七円であるところ、右年収額は、平成七年賃金センサス旧大新大卒・企業規模計の男子労働者二五ないし二九歳の年収額四五四万四九〇〇円を約一二二万円も上回っており、これは、訴外会社の給与が官公庁、民間企業全体の給与水準よりかなり高いことを示している。したがって、智子の逸失利益の算定基準として、右男子労働者の旧大新大卒・企業規模計の全年齢平均給与を用いることは相当ではなく、平成七年の二五歳から二九歳の年収が智子の前年度の年収と比較的近い値である賃金センサス旧大新大卒・金融保険業・一〇〇〇人以上の男子労働者の平成八年の全年齢平均年収額八七六万〇五〇〇円を基礎収入とし、生活費控除率を五〇パーセントとして計算したものである。

② 中間利息控除について、現在の我が国の国際的及び国内的経済状態を考えると、長期的に年五パーセントを大幅に下回る実質金利しか期待できないことは確実であり、当事者の公平という観点から、利率は年三パーセントを超えないものと考える。中間利息を年三パーセントと仮定した場合の係数は、労働能力喪失期間を三八年とすると、ホフマン式で二五・〇九五七である。なお、中間利息の控除方式について、ホフマン、ライプニッツとでどちらが適切な中間利息控除の方式であるのか確定されておらず、期待利回りの著しい低下がある状況に鑑みれば、当事者間の公平という観点から被害者の取得する一時賠償金の金額が少しでも多くなるような方式が用いられるべきである。

(9) 退職金に関する逸失利益 七一二万四六一三円

① 訴外会社の定年は、六〇歳であり、同社退職金規定によると、退職金算定の基礎月収は「退職日の属する給与支払月を含む最終三年間の各月における算定基礎給の合計額の三六分の一の金額」とされ、右算定基礎給は「各月における本給月額と月当たり賞与の合計額」とされている。また、定年退職金の一時金の額は、基礎月収に六〇歳までの勤続年数に応じた支給率を乗じたものとなっており、智子の場合は、勤続年数は三六年で支給率は五一・七九となる。

そして、前記平成八年旧大新大卒・金融・保険業一〇〇〇人以上の男子労働者五五ないし五九歳時の年収を算定基礎とし、退職金は実質上は賃金の後払いで退職後の生活保障の役割を果たしているところから、生活費を控除し、新ホフマン方式により中間利息を控除し、さらに、受領済の死亡退職金一七三万四〇〇〇円を控除する。

② 退職金は、賃金の後払いであるから、生活費控除率は、最高でも就業期間中と同率であると考えるべきである。

(10) 死亡慰謝料 二〇〇〇万円

智子は、独身であったが、若く大いなる将来あるキャリアウーマンであった。智子が受けた精神的苦痛を金銭的に評価すれば、少なくとも右金額程度が相当である。

(11) 原告ら固有の慰謝料 各五〇〇万円

智子が死線をさまよった三三日間の原告らの精神的苦痛並びにその死亡により受けた精神的苦痛は深く、今日においても癒されることはない。これを金銭的に評価すると、少なくとも右金額程度が相当である。

(12) 弁護士費用 各五〇〇万円

(二) 被告らの主張

(1) 治療費 九五一万八一二〇円

(2) 入院雑費

入院雑費については、日額一二〇〇円、入院三三日の合計金三万九六〇〇円の範囲で認める。

(3) 入院付添費・入院付添人のリネン代・付添看護のための交通費

智子が救急搬入された総合会津中央病院は、完全看護体制の治療機関であり、原告らの主張する付添看護は、医師の指示に基づくものではなく、家族の情愛に基づいて行われたものであるから、賠償の範囲外である。

(4) 入院慰謝料

原告らの請求は、治療期間に比して高額である。

(5) 葬儀費用

一二〇万円の範囲で認める。

(6) 給与に関する逸失利益

① 中間利息控除の利率について、遅延損害金の計算は年五パーセントで行われており、インフレ及びデフレ等のその時々の経済情勢に応じて運用利率が異なってくることは確かであるが、本件のように三八年間という長期間の中間利息控除に当たっては法定利率によることがもっとも平均化された合理性・相当性のある利率であるといえる。

② 基礎収入は事故前年の年収額を用い、かつ、中間利息控除係数は、ライプニッツ係数を使用するべきである。

(7) 退職金に関する逸失利益

基礎収入は事故前年の年収額を用い、かつ、中間利息控除係数は、ライプニッツ係数を使用するべきである。また、生活費控除割合は、退職金が退職後の生活保障的色彩が強いことに鑑み、少なくとも七割の生活費控除を行うべきである。

(8) 死亡慰謝料・原告ら固有の慰謝料

原告ら固有の慰謝料と併せて二〇〇〇万円を超えるものではない。

第三争点に対する判断

一  過失相殺

1  前記第二の一の1、2の事実及び《証拠省略》によると次の事実を認めることができる。

(一) 本件事故現場は、幅員約八メートル(両側に白線で区画された幅約一・一メートルの路側帯を含む。片側一車線(四メートル)であり、路側帯を除いた片側車線幅は、約二・九メートルである。)の東西に走る平坦なアスファルト舗装の国道一一五号線上であり、国道四九号線方面から福島市方面に向けて右カーブとなっており、前方の見通しはあまり良くない。事故現在付近は照明がなく、暗い状態であり、速度規制は時速五〇キロメートルであり、本件事故当時、路面は凍結していたが、交通量は少なかった。本件事故現場の南側は、それぞれ約一メートルの幅の無舗装の路肩、路肩から約一メートルほど低い無覆側溝となっており、路側帯、路肩は積雪が若干あった。側溝の南側は土手となっており、すぐに三交産業の工場のフェンスがあり、側溝と右フェンスとの間に人が立つ余地はなかった。

(二) 松嶋は、平成八年四月一四日午前三時半過ぎころ、本件事故現場手前の右カーブにさしかかり、減速をするためにブレーキを掛けたところ、路面には積雪はなかったが、凍結していたため、車はスリップをし始め、蛇行をしながら滑り、進行方向の反対側の側溝に左側タイヤを落とし、右側タイヤを路側帯部分に乗せて、傾いた状態で反対方向を向いて停止した。

(三) 松嶋、金子、林及び智子は、停止した松嶋車を再び道路上に脱出させようと試みたが成功しなかった。このため、金子がJAFに応援を求めるため、猶苗代インター方面へ歩いて行こうとしたところ、同インター方面から走行して来た車両が、通常の走行状態で松嶋車の横に停止した。金子は、同車両に同乗させて貰い、猪苗代インター付近のコンビニエンスストアーに電話を掛けるために向かった。

(四) 松嶋と林は、松嶋車から外に出て、一旦は、松嶋車が停止している位置から見て道路の反対側の空き地に行ったが、水たまりとなっており、足場が悪かったため、智子とともに、前照灯を点灯させている松嶋車の右側の路側帯部分(松嶋車右側と白線との間の約六〇センチメートル部分)に佇立して、応援がかけつけるのを待っていた。その後、猪苗代インター方面から五台位の車両が通りかかり、うち二、三台が松嶋車の横辺りに停止し、松嶋らに事情を聞くなどしたが、スリップをした車両はなかった。

(五) 被告康は、本件事故から約一週間前にノーマルタイヤにはきかえた加害車を運転し、同年四月一四日午前四時五分ころ、時速約五〇キロメートルの速度で、本件事故現場付近にさしかかり、前方にカーブがあること、道路は凍結していることを認めた。被告康は、カーブをほぼ曲がりきったあたり(松嶋車から約七二メートル離れた地点)で、松嶋車の右側に智子らが立っているのに気が付いた。被告康は、智子らが援助を求めているのかと思い、約一〇メートル進行した地点でブレーキを掛けたところ、加害車の後部がスリップをし始め、滑走して蛇行して、ハンドルによる制御ができない状態となった。被告康は、智子らが立っていた地点から約二五メートルの地点で、危険を感じ、急ブレーキを掛けたが、加害車は、滑走したまま、松嶋車、智子らに衝突した。

2  右認定の事実からすると、松嶋車の事故の原因が路面の凍結していたところにブレーキを掛けたことによるものであり、智子は、これを認識していたと認められ、走行する車両が路面の凍結によりスリップする可能性があることを予想できなくはなかったと思われるが、智子が救援を待っていた場所は、松嶋車と白線との間の約六〇センチメートルの路側帯部分であり、道路の交通量は少なかったこと、加害車に衝突されるまで通過した車両は、スリップをしておらず、高度の蓋然性をもって認識し得たとまでは認めることはできないこと、また、スリップの可能性についても、どのような態様でスリップするかまでの予想は困難であったと考えられること、松嶋車の停止していた路肩側付近には、車両が制御不能となった場合に避けきれるような場所はないと認められること、松嶋車の停止していた場所の道路の反対側に空き地があったと認められるが、この空き地は水たまりとなっていて足場が悪かったこと、事故現場付近は照明がなく暗い状態であり、制御不能となった車両が空き地に突っ込んで来た場合、空き地が道路面より高くなっているなど避けることのできる形状であったと認めるに足る証拠はないことに照らすと、智子には、本件事故惹起若しくは結果の拡大については、過失があると認めるのは相当ではない。

二  智子の損害

1  治療費 九五一万八一二〇円

前記第二の一の5のとおり、智子は、本件事故により、治療費として九五一万八一二〇円を要したと認めることができる。

2  入院雑費 五万六一〇〇円

前記第二の一の2のとおり、智子は、本件事故のあった日である平成八年四月一四日から死亡した同年五月一六日まで三三日入院していたものであり、《証拠省略》によると、智子の一日当たりの入院雑費は一七〇〇円を下回らないものと認めることができ、その総額は五万六一〇〇円となる。

なお、《証拠省略》によると、原告らは右五万六一〇〇円以上の支出をしていると認めることができるが、右支出全てが、本件事故と相当因果関係のあるものと認めるのは相当ではない。

3  入院付添費 一九万八〇〇〇円

《証拠省略》によると、智子が総合会津中央病院に入院後、原告髙畑周子は医師から、智子の病状は急変することがあり得るので家族一人は必ず病院に待機することを指示されたこと、智子の母である原告髙畑周子は、平成八年四月一四日から同年五月一六日まで三三日間付き添ったこと、原告髙畑忠德、智子の妹聖子、弟宏希及びその妻修子も面会、付添をしたことを認めることができるが、右入院期間中、一名を越える付添が必要であったとまでは認めることはできず、一名が付添看護をするために要した費用が本件と相当因果関係のある付添費用と認めるのが相当である。

入院付添費としては、経験則上、一日当たり六〇〇〇円が相当であると認められるので、本件においては、入院付添費は一九万八〇〇〇円が相当である。

4  入院付添人のリネン代 五〇八二円

右認定のとおり、智子の入院期間中の付添費は、一名が付添看護をするために要した費用であり、《証拠省略》によると、一名の一日当たりのリネン代は一五四円と認めることができるから、合計五〇八二円が入院付添人のリネン代と認めることができる。

5  付添看護のための交通費 一万一九〇〇円

《証拠省略》によると、原告両名、智子の妹聖子、弟宏希及びその妻修子が智子に対する面会、付添等のために要した交通費は、四八万〇六四〇円であること、このうち、原告髙畑周子の交通費は、一万一九〇〇円であることを認めることができ、付添看護費は、一名が付添看護をするために要した費用であるから、右一万一九〇〇円が付添看護のための交通費と認めるのが相当である。

6  入院慰謝料 五〇万円

智子の受傷部位・程度、入院期間等によると入院慰謝料としては、五〇万円が相当である。

7  葬儀費用 一六〇万円

《証拠省略》によると、原告らは、智子の遺体搬送費用を含めて葬儀費用として五六二万七二五四円の支出をしたことが認められるが、経験則上、本件と相当因果関係の認められる葬儀費用は、合計一六〇万円と認めるのが相当である。

8  給与に関する逸失利益 七一三二万八八〇五円

(一) 《証拠省略》によると、(1)智子は、昭和四一年八月二二日生まれの女性であり、平成二年三月に大学を卒業後、同年四月に訴外会社に入社し、情報開発部門に所属し、入社して四年目に副主任となったこと、(2)智子は、責任感が強く、指導力もあり、積極的に仕事をしており、将来を嘱望されていたこと、(3)智子自身も将来、仕事を辞めることは考えていなかったこと、(4)訴外会社は、男女による待遇の差はなく、定年は六〇歳であること、(5)訴外会社は、前年の考課査定に基づき、毎年一回定期昇給が行われていたこと、定期昇給が必ず停止されるのは、原則として、業務外の一般傷病又は結核性疾患以外の事由で九〇労働日以上欠勤又は休職した者、定期昇給考査期間最終日に自己都合で継続して三〇日以上欠勤している者、公職専従の者、会社の許可を受けて、学校教育を受けるため会社業務を休職中の者、育児・介護休職中の者、ボランティア・サービス休職中の者、キャリアプラン休職中の者などであり、定期昇給を停止されることがあるのは、定期昇給考査期間中、著しく勤務成績不良の者、懲戒を受けた者に限定されていたことを認めることができる。

(二) 右認定の事実からすると、智子は、本件事故がなければ、将来にわたり毎年定期昇給をしていた蓋然性がかなり高いことが認められる。そして、《証拠省略》によると、智子の本件事故前年の年収は五七六万九一七七円であり、右年収額は、平成七年賃金センサス旧大新大卒・企業規模計の男子労働者二五ないし二九歳の年収額四五四万四九〇〇円よりもかなり高く、同年の賃金センサス旧大新大卒・金融保険業・一〇〇〇人以上の男子労働者二五ないし二九歳の年収額五三九万九四〇〇円が比較的近い値であること、この金融保険業・一〇〇〇人以上の同年の全年齢平均年収額は、三六・八歳で八五〇万九七〇〇円であるが、この額は、三五歳から三九歳、四〇歳から四四歳、四五歳から四九歳、五〇歳から五四歳、五五歳から五九歳の年収額をいずれも下回っていることを認めることができる。

したがって、智子の逸失利益の算定に関しては、六〇歳までは、定期昇給の蓋然性を考慮し、平成八年賃金センサス旧大新大卒・金融保険業・一〇〇〇人以上の男子労働者の全年齢平均年収額八七六万〇五〇〇円を基礎収入とし、生活費控除率を五〇パーセントとして、ライプニッツ式計算法により、年五分の割合の中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると六八三〇万〇三六二円となる。

8760500×(1-0・5)×15・5928=68300362(小数点以下切り捨て)

次に、定年後は、少なくとも六七歳に達するまで七年間は稼働することができ、その間、平成八年賃金センサス旧大新大卒・金融保険業・一〇〇〇人以上の男子労働者六〇歳から六四歳の平均年収四七五万〇五〇〇円の収入を得ることが出来たと認めることができるから、右収入を基礎収入とし、生活費控除率を五〇パーセントとして、ライプニッツ式計算法により、年五分の割合の中間利息を控除して逸失利益の現価を算定すると三〇二万八四四三円となる。

4750500×(1-0・5)×(16・8678-15・5928)=3028443(小数点以下切り捨て)

なお、原告らは、中間利息控除について、現在の我が国の国際的及び国内的経済状態を考えると、長期的に年五パーセントを大幅に下回る実質金利しか期待できないことは確実であり、当事者の公平という観点から、利率は年三パーセントを超えないものと考えるべきであると主張するが、本件は、就労可能年数が三八年(定年までは三一年)と長期間に及ぶ事案であり、金利の変動は、世界的な政治、経済情勢や国内における政治的、経済的、社会的諸要因によって影響を受けるものであり、右三八年に及ぶ長期間に金利が三パーセントを超えないとの経験則があると認めることはできず、右原告らの主張は採用することはできない。また、原告らは、中間利息の控除方式について、ホフマン、ライプニッツとでどちらが適切な中間利息控除の方式であるのか確定されておらず、期待利回りの著しい低下がある状況にある場合は、被害者の取得する一時賠償金の金額が少しでも多くなるような方式が用いられるべきと主張するが、単利の運用と複利の運用を比較した場合、特に、長期間にわたる損害の場合は、複利運用のライプニッツ方式の方が合理的であり、右原告らの主張は採用することはできない。

9  退職金に関する逸失利益 三二四万三一八〇円

《証拠省略》によると、訴外会社の退職金規定によると、退職金算定の基礎月収は「退職日の属する給与支払月を介む最終三年間の各月における算定基礎給の合計額の三六分の一の金額」とされ、右算定基礎給は「各月における本給月額と月当たり賞与の合計額」とされていること、定年退職金の一時金の額は、基礎月収に六〇歳までの勤続年数に応じた支給率を乗じたものとなっており、智子の場合は、平成二年四月に二三歳で訴外会社に入社し、六〇歳の定年までの勤続年数は三六年で支給率は五一・七九となること、智子の死亡により、退職金一七三万四〇〇〇円が平成八年七月一九日に支払われていること、前記平成八年賃金センサス旧大新大卒・金融保険業一〇〇〇人以上の男子労働者の五五ないし五九歳時の年収は一〇四六万九七〇〇円であることを認めることができる。

右年収一〇四六万九七〇〇円を算定基礎とし、退職金は実質上は賃金の後払いで退職後の生活保障の役割を果たしているところから、生活費を五〇パーセント控除し、ライプニッツ方式により中間利息を控除し、さらに、受領済の死亡退職金一七三万四〇〇〇円を控除すると、三二四万三一八〇円となる。

10469700÷12×51・79×(1-0・5)×0・2203-1734000=3243180(小数点以下切り捨て)

10  死亡慰謝料 一八〇〇万円

智子の年齢、生活状況、家庭環境、本件事故の態様などの諸般の事情、別途原告らの固有の慰謝料が請求されていることを考慮すると、その慰謝料としては一八〇〇万円が相当である。

11  合計 一億〇四四六万一一八七円

12  損害の填補 三九五一万八一二〇円

三九五一万八一二〇円の損害の填補がなされていることは前記第二の一の5のとおりであり、これを控除すると智子の損害残額は六四九四万三〇六七円となる。

三  相続

以上のとおり、智子の損害残額は、六四九四万三〇六七円となるので、原告両名の相続額は、各三二四七万一五三三円(小数点以下切り捨て)となる。

四1  原告ら固有の慰謝料 各二〇〇万円

原告らの智子の両親として、智子の死亡により受けた精神的苦痛に対する慰謝料は、原告両名につき、それぞれ二〇〇万円と認めるのが相当である。

2  弁護士費用 各三〇〇万円

本件訴訟の難易度、審理の経過、認容額、その他、本件において認められる諸般の事情に鑑みると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、原告両名につき、それぞれ三〇〇万円と認めるのが相当である。

五  結論

以上によると、原告らの本訴請求は、原告両名が、それぞれ、被告らに対し、各自、三七四七万一五三三円及びこれに対する本件事故日である平成八年四月一四日から支払済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるが、その余は理由がない。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 菅原崇)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例